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2013年1月30日水曜日

リカーシブル



ジャンル  :ホラー風ミステリ、(現代的な)村もの
ストーリー :7
構成    :8
文章力   :7
キャラ   :9
ミステリ度 :8
総合    :8


米澤穂信の2年ぶりの長編。

まず手に取ってみて一言、紙質が悪すぎる!!
表紙の装丁はすべすべで好きだけど、紙質はページを捲る手で鳥肌が立ってしまうほどに悪い!
発売時期も冬で、乾燥して手がかさつく季節。
佐藤亜紀信者でなくとも、これは新潮の編集を無能だと思わざるを得ないわー。

しかし米澤さんの筆力は流石でした。

レイモンド・チャンドラー曰く、一人称視点では主人公自身の魅力が伝わりにくい。客観的に描かれる周りの人間の方が人間性が垣間見れて共感しやすいそうです。

けれど今作、主人公ハルカの一人称語りなのですが、ハルカの魅力を十二分に感じることができました!
たぶん、ハルカがいつもの米澤キャラ(冷めた主人公)で終わるのではなく、米澤さんにしては珍しい「熱い主人公」としてラスト前向きな描かれ方をしていたからかな、と思います。
まあ、その後を考えれば救いのないラストではあるのですがw(←米澤さんも『ボトルネック』より残酷になったって言ってたw)


物語の舞台は、古い因習の残るうらぶれた不気味な町。
食指そそられるんだけど、肝心のトリック自体はそんなに目新しくはなかった。
でも最後「タマナヒメ」の謎を残していることも考えると、この小説はミステリやホラーと言うより、幻想小説風味のものなのかも知れません。

とはいえ、伏線は見事です。
第一章一行目からもう始まってますwそれを知ってても騙されるんですけどね。

ラスト、真実を知ったことでハルカは嫌いだった弟への想いを言い放ちます。
あの描写(ネタバレ反転:「(弟のことは)もちろん嫌いよ。だけど。だけどさ」「いちおう、お姉ちゃんだからね」と弟を助ける)は熱い!
あの想いの根底にあるのは、きっと同情じゃなくて姉弟愛だと信じてます!


日常の謎として面白かったのは、
「降るかな」
「晴れるよ。ぼく、知ってるもん」
という、弟が予知能力っぽいものの片鱗を見せた時のネタ。
帯の「弟は急に予知能力を発揮」に引きずられると、思わず次の文で笑っちゃうw


総評:姉と弟が、どこまでも愛おしい作品。やっぱり、物語のキーって漫画でも小説でも「キャラの魅力」なんだな。

以下、トリックの遠回しなネタバレ

メイントリックのネタは、東野圭吾の初期の作品で二作品ほど同種のネタがありましたね。
東野作品の元ネタは「game」という洋画らしいのですが(折原一が解説してたはず)、リカーシブルもそれに近いネタです。
邦画の「アフタースクール」なんかも近いかも。
ただ実際、"繰り返している"という意味では、「なるほど、このネタもこんな使い方ができたのかと感心させられました。

使い古されたネタもでも独特の調理法で料理されるとまた違った味が楽しめるのですね。


ここで今回の作品も含めて、『米澤作品長編ベスト5』を発表!

1. 折れた竜骨


2. 儚い羊たちの祝宴


3. ふたりの距離の概算


4. リカーシブル


5. 追想五断章


短編なら断然『満願』よ!

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