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2012年11月15日木曜日

147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官


ジャンル  :サスペンス、刑事もの
ストーリー :6
構成    :5
文章力   :6
キャラ   :2
ミステリ度 :5


女流乱歩賞作家、川瀬 七緒氏の作品
氏の作品は初めて読んだけれど、リーダビリティは低くないと思う。といっても無意味に読ませる描写は多くて飽きてきやすい。
リーダビリティの原動力となる「謎」と「法医昆虫学」はとても良かった。ってか法医昆虫学目当てで読んだわけで。けれど小説的面白さという点は、残念な結果だった。
まずキャラに魅力がない。刑事の岩楯と法医昆虫学者の赤堀、その二人の主人公視点で展開していくのだけれど、二人ともが皮肉屋で、自分勝手で、読んでいて楽しくなかった。この二人のフィルターをかぶせた他の登場人物の印象が全て等しく貶められていて、エンターテイメントとしてはうんざりしてくるのだ。
三人称の中に主人公の感情・視点も混ぜた形式なのだけど、少しレイモンド・チャンドラーの言葉を引用してみる。

一人称形式は制約が多くて扱いにくい。「わたし」は思ったことを洗いざらいぶちまけることになり、かえって(人物的)厚みが出にくいのだ。どんな心の動きもすべて平板になってしまう。
(中略)
ミステリーでは特に著しいことなのだが、最後まで一人称で押し通すことはできても、主人公は妙に輪郭がぼやけてしまうのである。どんなにうまく料理しても、結局、のっぺらぼうの「わたし」に還元されてしまい、くじけず頑張る男という平凡な印象がうっすら残るだけなのだ。三人称で性格描写された脇役の方がはっきりと印象に残ってしまう。
(中略)
視点をどこに置くにしても、人物を単純化しすぎるのは避けるべきだ。どんな人物でも完璧に描写しようとしたら一生かかっても足りないのは明らかだから、取捨選択を避けられない。が、割り切りすぎると絵空事になってしまう。自分自身にも自分の任務にも全く疑いを持たない男がいたら、馬鹿か聖人か、とても正気とは思えない。人類最大の特徴は自己不信ではあるまいか。だから私は、誰から先にふっとばすかということ以外に何の迷いも悩みもない主人公には、ほとほと愛想が尽きるのだ。

思うに、川瀬氏は詳しく描写しすぎかと思う。もっと読者の想像にゆだねて欲しい。相手の何もかもを主人公が推し量ってしまい(しかも悪く)、読んでて窮屈だった。
構成的にももっと削れるエピソードがあったと思う。長くするならもっと虫の話をして欲しかったなぁ。正直これを読むなら、参考文献の虫の本を読んだ方が有意義だったかと。

あとミステリとしては、推理ではなく犯人が全部勝手にばらしだすオチは面白くない。
何よりラスト、無駄に少年が死んだのは不愉快……だめな映画を盛り上げるために、簡単に命が捨てられて(ry
続編がありそうな終わり方だったけど、正直読まんだろうなぁ……